
「今月のPVは昨対比120%で推移しており、CTRも改善傾向にあります!」
定例ミーティングで自信満々にレポートを提出したのに、クライアントの反応が薄い・・・
あるいは、「で、それは結局いくらの売上になったの?」と冷たく返されてしまった。
もしあなたがこのような経験をしたことがあるなら、それはあなたのスキル不足ではありません。
「KPI(重要業績評価指標)の設定」における、クライアントとのボタンの掛け違いが原因です。
多くのマーケターやコンサルタントが、管理画面上の数字を追いかけるあまり、クライアントが真に見ている「ビジネスの本質」を見失ってしまっています。
本記事では、単なる数字の報告係から脱却し、クライアントから「この人ならビジネスを任せられる」と信頼されるための、本質的なKPIの決め方を解説します。
なぜ、そのレポートは響かないのか?「管理画面」と「経営」の壁

まず、なぜ数字は良いのに評価されないという「ズレ」が起きるのか、その根本原因を直視しましょう。
それは、「マーケターが見ている数字」と「経営者(クライアント)が見ている数字」が異なるからです。
- マーケターの視点: クリック率(CTR)、クリック単価(CPC)、ページビュー(PV)、セッション数など、「プロセスの数字」
- クライアントの視点: 売上、粗利、キャッシュフロー、成約数など、「結果の数字」
極端な例を挙げれば、どれだけWebサイトへのアクセスが増えても(PV増)、商品が一つも売れなければ、クライアントにとっては「コストの無駄遣い」でしかありません。
レポートが響かないのは、あなたが報告しているKPIが、クライアントのビジネスゴール(KGI)にどう貢献しているのか、その「接続」が見えていないからです。
KPI設定でやりがちな3つの失敗パターン

正しいKPIを設定するために、まずは「やってはいけない」典型的な失敗例を3つ紹介します。
1. 「虚栄の指標(Vanity Metrics)」の罠
「いいね数」や「PV数」は、一見すると数字が大きく伸びていて気持ちが良いものです。
しかし、これらは直接的な売上や利益に結びつきにくいことが多々あります。
例えば、ターゲットではない層からのアクセスを大量に集めてPV目標を達成しても、それはビジネスの成長とは無関係です。
これを見栄えが良いだけの「虚栄の指標」と呼びます。
2. 手段の目的化
「Instagram運用を始めたから、フォロワー数をKPIにする」「オウンドメディアを作ったから、記事本数をKPIにする」。
これは非常に危険です。本来、SNSやメディアは「見込み客を集めるための手段」だったはずです。
いつの間にか手段が目的になり、フォロワーを増やすことだけにリソースを割いて、本来の目的である「集客・販売」がおろそかになってしまうケースです。
3. KGIの解像度不足
「とりあえず売上アップを目指しましょう」という曖昧なゴールのまま、KPIを設定してしまうパターンです。
「誰に」「何を」「どれくらい」売るのかが決まっていなければ、追うべき指標は決まりません。
新規顧客を増やしたいのか、リピーターを増やしたいのかによって、見るべきKPIは180度変わります。
クライアントが「本当に欲しい」KPIを見つける4つのステップ

では、どうすればクライアントと目線を合わせ、ビジネスを加速させるKPIを設定できるのでしょうか。
以下の4ステップで進めることで、説得力のあるKPI設計が可能になります。
STEP 1:KGI(ビジネスゴール)を「因数分解」する
いきなり「CPA(獲得単価)はどうしますか?」と聞いてはいけません。まずはクライアントのビジネス構造を理解するために、KGI(最終目標)を因数分解します。
例えば、ECサイトの売上がKGIの場合、以下のように分解できます。
売上 = 訪問数 × 購入率(CVR) × 客単価
ここでクライアントにヒアリングを行います。
「今の課題はどこにありますか? 集客はできているけれどカゴ落ちが多いのか(CVRの課題)、それともそもそも人が来ていないのか(訪問数の課題)」
経営課題のボトルネックがどこにあるかを特定することこそが、KPI設定の第一歩です。
STEP 2:ロジックツリーで接続する(KPIツリーの作成)
ボトルネックが見えたら、それをWeb施策でどう解決するか、論理の糸を繋いでいきます。
これを「KPIツリー」と呼びます。
【例:BtoB SaaS企業の場合】
- KGI: 月間受注数 10件
- CSF(重要成功要因): 商談数を増やす必要がある
- KPI 1: リード獲得数(資料請求数)
- KPI 2: サービスサイトへのセッション数
- KPI 3: 資料請求フォームへの遷移率
- KPI 1: リード獲得数(資料請求数)
このように、「Web上のKPI(セッション数など)」を達成すれば、必ず「ビジネスのKGI(受注数)」に繋がるというロジックを可視化します。
この図式をクライアントと共有できていれば、「セッション数が大事な理由」が伝わり、報告の納得感が劇的に高まります。
STEP 3:「先行指標」と「遅行指標」を使い分ける
ここがプロとアマチュアを分けるポイントです。KPIには2種類あります。
- 遅行指標(Lagging Indicators): 結果としての数字。売上、利益、成約数など。 → クライアントが一番知りたいのはコレ。
- 先行指標(Leading Indicators): 未来の結果を予測する数字。リードの質、重要ページの閲覧数、商談化率など。 → 現場(あなた)がコントロールすべきはコレ。
「今月の売上(遅行指標)」は、先月の活動の結果です。
今さら変えられません。
しかし、「今月の重要ページ閲覧数(先行指標)」が悪ければ、来月の売上が下がることが予測できます。
だからこそ、「今、ここを改善します」という提案ができます。
クライアントへの報告では、「遅行指標(結果)」で安心感を与えつつ、「先行指標(未来)」を見せてアクションプランを提示するのが黄金パターンです。
STEP 4:定性的な「納得感」をKPIに組み込む
数字だけでは測れない「感情のKPI」も重要です。
例えば、「ターゲットとしていた大手企業からの問い合わせが1件あった」という事実は、全体の数字で見れば誤差かもしれません。
しかし、クライアントにとっては「ブランディングが成功している証」として、何百件のアクセスよりも価値がある場合があります。
「どんな企業からの問い合わせが嬉しいですか?」「どんな口コミが増えたら成功と言えますか?」と聞き出し、それを定性的なKPI(裏KPI)として握っておくことで、信頼関係はより強固になります。
信頼されるKPI設定のための「SMARTの法則」再定義

KPIを設定する際、ビジネスフレームワークの「SMART」が有名ですが、これを対クライアント用に再解釈して活用しましょう。
- Specific(具体的か): 「認知を広める」ではなく「指名検索数を増やす」など、誰が見ても解釈がブレない言葉にする。
- Measurable(測定可能か): その指標はGoogleアナリティクスやCRMで正確に計測できるか。計測ツールが未導入なら、そこから提案する。
- Achievable(達成可能か): 単なる夢物語になっていないか。過去のデータや市場平均から算出し、頑張れば届く「ストレッチゴール」を設定する。
- Relevant(関連性): ※最重要 そのKPIを達成したら、本当に経営目標(KGI)に近づくのか。 ここが切れているKPIが一番危険です。
- Time-bound(期限): 「いつまでに」達成するのか。月次なのか、四半期ごとなのか。
「握り方」が9割!合意形成のテクニック

どれだけ素晴らしいロジックでKPIを組んでも、クライアントとの「握り(合意)」が甘いと後でトラブルになります。
最後に、プロが実践している合意形成のコツをお伝えします。
KPIは「生き物」であると伝える
「一度決めたら絶対に変えない」というスタンスは危険です。
Webマーケティングは変化が激しいため、フェーズによって追うべき指標は変わります。
「まずは認知獲得フェーズなのでセッション数を追いますが、3ヶ月後には獲得フェーズに移行し、CPA重視に切り替えます」と、ロードマップの中でKPIが変化することを事前に合意しておきましょう。
「守りのKPI(撤退ライン)」も設定する
攻めの目標だけでなく、「CPAが○○円を超えたら一旦停止して対策を練る」というアラートラインも共有します。
リスク管理ができている姿勢を見せることで、クライアントは「この人は予算を使い込むようなことはしない」と安心して任せてくれるようになります。
まとめ:KPIは「通知表」ではなく「羅針盤」

KPIを「月末に評価される通知表」だと思っていませんか?
そうではなく、クライアントと共に暗い海(市場)を航海するための「羅針盤」としてKPIを使ってください。
「今、私たちはこの方向(KPI)に向かっています。なぜなら、そこに宝島(KGI)があるからです」
そう語ることができれば、あなたのレポートは単なる数字の報告書から、経営の意思決定を支える重要な資料へと変わります。
クライアントが本当に欲しいのは、見栄えの良い数字ではありません。
「自分のビジネスを、自分ごとのように考えて伴走してくれるパートナー」です。
まずは次回のミーティングで、「今のKPIは、御社の最終的なビジネスゴールとしっかり繋がっていますか?」と問いかけてみてください。
そこから、本当の信頼関係が始まります。